勢いが衰えてきているとは言え、注目の居酒屋チェーン運営企業である「串カツ田中」(証券コード:3547)と「鳥貴族」(証券コード:3193) を有価証券報告書を元に比較してみました。
私が実際に利用した回数は、串カツ田中:2回、鳥貴族:数回と決して多くはありません。なぜなら飲みにあまり行かないから。
そんな居酒屋に詳しくもない私が有価証券報告書に書かれた内容をもとに推理を働かせて、両者のビジネスに関わる数値と原因を紐解きます。
本来ならばインターネットで、その推理の根拠となる情報を探し回るべきですが、今回は面倒くさいのであえてやっていません。両社がどんな会社であるかの説明も割愛してます。
ゆるい記事になっておりますので、ゆるい気持ちでお読みください。
両社に注目をしたきっかけ
なぜ両社に注目をしたか、新型コロナウイルス拡大の影響で臨時休業を決めたという以下の記事を目にしたためです。
行政からの外出自粛を受けて家へ籠る人が増える中で外食産業は大きな影響を受けています。中にはテイクアウトで需要が逆に上がるお店もあるようですが、居酒屋はその特性からも影響が大きいジャンルだと思われます。
臨時休業を決めたちょっと勢いがなくなったところの串カツ田中と鳥貴族、両社は現在どうなってるのだろう?と思い、私は有価証券報告書を覗きに行きました。
今回の記事の元とした有価証券報告書は以下になります。
損益計算書で本業の成績を比較する
損益計算書より数値を抽出して表にまとめました。本業の儲けのみに注目するために営業利益までの数値のみを書き出しました。
売上高
会社の規模感を持ってなかったので、鳥貴族が串カツ田中の3.5倍の売上高があるのを知って驚きました。これだけ売上高の差があるということは、もちろん店舗数にも差があります。店舗数については、後程見ていきます。
売上総利益率
売上 - 売上原価 = 売上総利益(粗利)
売上総利益は、どれだけ付加価値を加えたかを表します。売上から売れた商品の仕入れや製造にかかった費用(売上原価)を引くことで算出されます。
売上高の数値がだいぶ違いますので、売上に対する売上総利益の比率(売上総利益率)で両社を比較してみると、串カツ田中が61.1%、鳥貴族が70.1%となっています。
この数値から鳥貴族の方が、付加価値を加えて商品を売れていることが分かります。
営業利益率
売上総利益 - 販売費及び一般管理費(販管費) = 営業利益
営業利益は、会社が本業によって得た利益を表します。売上総利益から商品を販売するためにかかった費用(販売費)と会社の活動の管理にかかる費用(一般管理費)を引くことで算出されます。
こちらも売上高に対する営業利益の比率(営業利益率)で両社を比較してみると、串カツ田中が6.0%、鳥貴族が3.3%となっています。
この数値から串カツ田中の方が、効率よく利益を得ていることが分かります。
とは言えどちらも低い気が…。
売上原価率と売上高販管費率
売上総利益率と営業利益率から分かった以下の2点、なんだかしっくりきませんね。
- 鳥貴族の方が付加価値を加えて商品を売れている
- 串カツ田中の方が効率よく利益を得ている
相反する結果は、両社の売上に対する原価の比率(売上原価率)と売上に対する販管費の比率(売上高販管費率)の違いから来ています。
さて、この売上原価率と売上高販管費率の違いはどこから生まれたものなんでしょうか?気になります…。
事業系統図でビジネスモデルを比較する
次に両社のビジネスモデルの違いを感じるために有報から引っ張ってきた事業系統図を比較します。事業系統図とは、その会社の事業を簡単に図にまとめたものです。
まず気になるのが鳥貴族のTCC店(鳥貴族 カムレードチェーン店)という謎の単語。調べてみるとフランチャイズと似た仕組みなのですが、結構独特の仕組みです。
フランチャイズの仕組み
フランチャイズとは、フランチャイズ契約を結んだ個人や会社に対し、本部からお店の名称や看板、サービスや商品を使う権利を与える仕組みです。フランチャイズへの加盟者は、権利を使って得た利益の一部を対価として本部に支払います。
フランチャイズと比べて、鳥貴族のカムレードチェーンがユニークなのは以下の点です。(社長のブログ、独立支援制度参照)
- 新規の加盟を受け付けておらず、閉鎖されたチェーンシステムである
カムレードチェーンに加盟できるのは、従業員・元従業員のみに絞っています。従業員のの独立支援制度として提供しています。 - フィーが世間一般のFCフィーと比較して非常に低額である
フランチャイズというよりかはラーメン屋ののれん分けに近い仕組みと言えます。
ロイヤリティ
フランチャイズ加盟店が本部に払う対価の主なものとしては、加盟金とロイヤリティがあります。加盟金は加盟時1回のみの支払いですが、ロイヤリティは毎月の売上に応じて継続的に払います。
■串カツ田中
ロイヤリティは、売上の5%とフランチャイズ募集ページに記載されています。外食チェーンの変動ロイヤリティの場合、おおむね2~5%らしいので串カツ田中の5%は高めに設定されてます。
■鳥貴族
鳥貴族は串カツ田中と違い毎月固定のロイヤリティとなっています。東洋経済の記事にて毎月のロイヤルティは5万円との記載がありました。格安と言ってよいのではないでしょうか。
フランチャイズ店への販売
事業系統図を見ると分かるように串カツ田中では「直営店からFC店への食材等の販売」、鳥貴族では「タレ工場からTCC店へのタレの販売」が行われています。
串カツ田中の有報には売上高の内訳が記載されています。
内訳からFC商品売上で大きな金額が計上されていることが分かります。事業系統図に仕入れ先からFC店への食材等の仕入れが書かれていますが、この規模感から仕入れている食材等の内のかなりの部分が直営店からの購入になっていることが予想されます。
FC商品売上2,166,860千円に対し、直営店の商品の原価も含んだ会社全体の売上原価が3,893,975千円なんですからFC店への販売にもいくばくかの利益を乗せて売っているのではと想像してしまいます。
一方の鳥貴族ですが、残念ながら有報に売上高の内訳が書かれていません。しかし、タレの販売とあるのでまあタレの販売のみなのでしょう。TCC店は、タレ以外は仕入れ先より直接仕入れているものと思われます。タレのみなので、TCC店への売上高の割合も小さいと予想されます。
さて、ここで売上原価率の違いについて、考えてみましょう。
フランチャイズ店への販売から見えてきたのは、
- 串カツ田中の売上高は、FC店への販売が大きく含まれている
- 鳥貴族の売上高は、TCC店への販売があまり含まれていない
という点です。
串カツ田中がFC店へどれくらい利益を乗せているのかは分かりませんが、「FC店はその商品をお客様へ決められた定価で提供して利益を得ている」のですからそこまで多くの利益を乗せられません。つまり少しの利益で多くの商品を販売しています。これにより売上原価率は必然的に高くなります。
一方の鳥貴族はほぼすべての売上高がお客さんへの販売が占めていると思われます。お客さんへの販売は利益を乗せて行いますのでもちろん売上原価率は低くなります。
串カツ田中は原価率が高いので、「いい材料を使っている = コスパがいい」という記事を目にもしましたが、私はこの販売先の違いが売上原価率の違いとなっているのではと予想します。
売上原価率の違いは、商品の販売先の違いからきている(はず)
直営店とフランチャイズ店の割合
フランチャイズの仕組みの違いは、直営店とフランチャイズ店の割合からも見て取れます。
串カツ田中の方が、圧倒的にフランチャイズ店の割合が高いです。鳥貴族のカムレードチェーンを知るまでは、鳥貴族より串カツ田中の方がフランチャイズをやりたい人が多いのかと思っていました。しかし、今は鳥貴族のフランチャイズ店の割合が低い一因は、カムレードチェーンにあると声を大にして言えるような気がします。
単位当たりの数値を比較する
さらに単位当たりの数値で両社の比較を進めます。
従業員1人当たり
単位当たりでの比較の第一弾は、従業員1人当たりの数値です。
従業員(雇用者)が何人いるかは有報に記載されています。ここで言う臨時雇用者とは、アルバイトやパートを指しており、数は年間の平均雇用人員(1日8時間換算)の数値です。
同じ居酒屋でもスタンスの違いがはっきりと出ていておもしろいですね。串カツ田中は常時従業員数が五割近いのに対して、鳥貴族は二割にも満たないです。
では、合計の従業員数で単位当たりの数値を算出します。
従業者1人当たり売上高は、 1人当たりいくら売り上げたかを見ることで効率の良さを比較できます。串カツ田中が鳥貴族の2倍近い数値となっており、圧倒的に効率がよいことが分かります。従業者1人当たり営業利益で見るとその差はさらに広がります。
逆に従業員1人当たりの販管費を見てみると串カツ田中が鳥貴族より高くなっています。これは、販管費の大部分を占める人件費(常時雇用者数の割合が高い)が影響していると思われます。常時従業員数の方が、より付加価値をつける仕事ができていると言えるのかもしれません。
直営店1店舗当たり
単位当たりでの比較の第二弾は、直営店1店舗当たりの数値です。
注目すべきは、直営店1店舗当たりの従業員数の違いです。ざっくりとした数字で串カツ田中が6人に対し、鳥貴族は11人です。この人数の違いにより串カツ田中は、従業員1人当たりの販管費は高いにも関わらず店舗当たりで見ると費用を抑えられていることが分かります。
もちろん店舗の大きさ(お客さんが入るキャパシティ)の違いもあるのでしょうが、串カツ田中は少人数で効率よく売り上げていることが分かります。
単位当たりの数値の比較から売上高販管費率の違いは、従業員1人当たりの売上の違いがもたらしたものだと感じてもらえたのではないでしょうか。
売上高販管費率の違いは、従業員の生産性の違いからきている(はず)
余裕度を比較する
なぞはすべて解けた!風にできましたので、最後に両社の余裕度について少し考えます。臨時休業によるダメージに耐えられる余裕があるのでしょうか?余計なお世話ですね。
損益分岐点
損益分岐点とは黒字と赤字の境界となるところを指します。損益分岐点となる売上高(損益分岐点売上高)がいくらになるのかを求めて現在の売上高との乖離を見ます。
販管費 + 売上高 × 売上原価率 = 売上高
となるところですので、
損益分岐点売上高 = 販管費 / (1 – 売上原価率)
で計算できます。
■串カツ田中
損益分岐点売上高 = 5,511,822/(1-0.389) = 9,020,985(千円)
現在の売上高を比較すると売上高が9.8%下落すると損益分岐点売上高となることが分かります。
■鳥貴族
損益分岐点売上高 = 23,938,010/(1-0.299) = 34,148,374(千円)
現在の売上高を比較すると売上高が4.7%下落すると損益分岐点売上高となることが分かります。
この計算の元となる売上高は新型コロナウイルス発生前のものです。 利益率から薄利多売のビジネスだとは思っていましたが、9.8%と4.7%の下落が損益の分岐点…かなり厳しい数値ではないでしょうか?休業とかという問題ではない気がします。
ただ、上記の計算は販管費を固定費として行った計算です。販管費には臨時従業員に対する人件費(売り上げ減少に応じて調整できる費用)が入っているので、その部分でさらなるバッファが含まれていることは頭に入れておく必要があります。
流動比率
最後に会社の安全性を見る指標の1つ、流動比率について確認をしておきます。
流動比率は以下の計算となります。
流動比率 = 流動資産 / 流動負債 x 100
流動資産は1年以内に現金化できる資産、流動負債は1年以内に支払わなければならない債務です。この比率によって短期的な会社の負債に対する支払い能力(資産の余裕)を見ることができます。
■串カツ田中
流動比率 = 2,421,166千円 / 1,857,634千円 x 100 = 130.3%
■鳥貴族
流動比率 = 5,736,177千円 / 6,931,880千円 x 100 = 82.8%
なんだかコメントしづらい感じになっちゃいました。あくまで短期的な支払い能力を示す指標ですからね…えぇ。
まとめ
串カツ田中と鳥貴族の比較、いかがだったでしょうか?どちらも低価格で商品を提供している会社ですが、各種数値を比較すると意外な真実が見えてきました。
そして、串カツ田中と鳥貴族の比較をすることで生まれてきた疑問に対して、私は以下の理由付けをしました。
- 串カツ田中の売上原価率が高いのは、フランチャイズ店向けの販売が多いから
- 鳥貴族の売上高販管費率が高いのは、従業員1人当たりの売上高が少ないから
上記はあくまで私が考えた結果ですので、皆さんそれぞれで考えてみてください。有報には想像力をかき立てる何かがあります。
今回の記事は、両社の臨時休業のニュースをきっかけに記事を書き始めました。記事を書いているうちに状況はさらに悪くなり、都心部をはじめとする地域に緊急事態宣言が発令されました。終わりの分からないウイルスとの戦い、嫌になります。。
よく両社にお世話になっている方々を含めた皆様にいつもの日常が戻ってくることを願いつつ、まとめの最後とさせていただきます。
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